2003-4年度 研究プロジェクトの目的と成果
人間進化学|心理言語科学|統合言語科学|計算言語科学|認知発達臨床科学
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人間進化学部門
LC-MS/MSを用いた唾液中ホルモン測定による内分泌行動学 研究
長谷川寿一
坂口菊恵(博士課程1年・学術振興会 DC1)
沖真利子(学部4年),塚越菜緒子(学部3年)
プロジェクトの目的
内分泌と心理・行動との関連について,近年ヒトにおいても多くの研究がなされている.これは唾液など非侵襲的に採取できる試料を利用した測定法の普及によ るところが大きいが、唾液中のホルモンは濃度が微量であり従来の生物学的測定法では信頼性が低いこと,および生理的な意義が不明確であることといった問題 点がある.本プロジェクトでは物理的性質を利用して物質の微量定量を可能にする液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を利用 し,ヒト唾液中の各種ホルモン濃度を,その生理的意義を明確にしつつ正確に測定する方法を確立する.また,唾液を用いて測定された各種ホルモンの日本にお ける基準値を確立する【研究項目1】.このようにして得られた測定値と、心理特性・心身の健康との関連を検討する【研究項目2】.
2003-4年度の成果
【研究項目1】
10代~90代の幅広い年齢層の健常男性を対象に血液・唾液採取を行い,これらの試料をもとに以下のホルモンの唾液を用いた測定法とその生理的意義を検討 した.
(1) Testosterone・Dihydrotestosterone(DHT)・Dehydropiandrosterone (DHEA):各種男性ホルモン
(2) Cortisol:副腎性ストレスホルモン
(1)は「臨床病理」誌にて印刷中である.同様に,女性ホルモンであるEstradiolの唾液を用いた定量法の確立をすすめている.
【研究項目2】
20代中心の男性の唾液を用いて測定されたTestosterone, Cortisolと,質問紙法により測定された以下の心理・行動特性との関連について日内変動を考慮して検討した.
(1) 特定の異性パートナーの有無および,配偶戦略との関連が示唆されている心理特性
(2) 攻撃・怒り特性および,報酬刺激・罰刺激への感受性(BIS・BAS)
(3) 不安・抑うつ傾向・タイプA性格および,生活の規則性と睡眠時間
(1),(2)については動物行動学会において発表を行った.以上のデータをもとに,認知実験的な手法を用いてさらに機序を検討し,また心理・医療臨床 場面と提携して実生活上で表れる問題との関連を検討することで,基礎および臨床の両面に対して具体的な提言を行うことを視野に入れ研究計画をすすめてい る.
自閉症児の社会性の障害の基盤を探る認知心理学研究
長谷川寿一
千住淳(博士課程3年),
國平搖(修士課程2年),菊池由葵子(学部4年)
プロジェクトの目的
自閉症とは対人相互反応およびコミュニケーションの障害と常同的、反復的な行動や興味のパターンによって定義される発達障害であるが、その障害の認知的、 神経科学的な基盤には不明な点が多い。そこで本プロジェクトでは、特に自閉症児の社会性の障害に注目した基礎研究を進めている。実験心理学的手法を用いて 操作的、定量的に社会的認知や社会的相互作用を検討することにより、彼ら、彼女らが「他者」という社会的な刺激をどのように認知し、相互作用するのかを実 証的に検討している。
2003-4年度の成果
主に学齢期の自閉症児を対象とし、東大駒場キャンパスCOEラボにおいて、以下の3つの社会的認知課題を実施し、定型発達児群との比較を行った。
(1) 他者の動作模倣課題の実施、および誤反応パターンの解析
(2) 他者の視線方向に対する注意シフトに関する実験的検討
(3) 他者の表情認知における空間周波数、顔呈示方向の効果の検討
上記の3つの課題のすべてにおいて、自閉症児に特徴的な誤反応パターンを同定することに成功した。(1),(2)については発達心理学会において発表を 行った。また、以上の全ての研究に関して、現在英文国際誌へ論文を投稿、あるいは執筆中である。今後は、認知的なメカニズムの解明のための更なる実験心理 学的検討を進めると共に、発達的な変遷や神経科学的機序の解明を進め、自閉症の社会性の障害の基盤となる認知神経メカニズムの検討を行う予定である。本研 究を進めることにより、有効な早期スクリーニングのための行動指標の作成、あるいは効果的な早期介入法の確立のための基礎データを提供できることが期待さ れる。
チンパンジーの社会行動に関する行動内分泌学的研究
長谷川寿一
石田貴文
吉川泰弘 (農学生命科学研究科)
池田功毅 (北海道大学文学研究科、修士課程2年)
山本ライン (理学研究科、修士課程1年)
寺本研 (三和化学研究所熊本霊長類パーク)
本間誠次郎 (帝国臓器製薬メディカル)
プロジェクトの目的
霊長類の社会行動(例えば、順位行動や攻撃行動、親和行動)と内分泌生理の関係については、これまで多くの研究がなされてきたが、それらの結果には不一致 が多く議論が続いている。そこで本プロジェクトでは、飼育下のオスチンパンジーを対象として内分泌測定の精度を高め、実験的に統制された行動観察を行うこ とによりこの問題に取り組む。まず、チンパンジーの内分泌生理状態を、非侵襲的かつ正確に測定することを目的として、唾液サンプル中からのステロイドホル モン測定方法を確立する【研究項目1】。この方法を用いて、実験的に発情期のメスを導入した場合【研究項目2】、新しいオスのみのグループを形成させた場 合【研究項目3】のそれぞれについて、観察と測定を行う。
2003-4年度の成果
【研究項目1】オスチンパンジー(三和化学研究所熊本霊長類パーク)を対象として、唾液、血液、尿、糞の各サンプル中のステロイドホルモン濃度 (TestosteroneとCortisol)を測定し、唾液サンプル中ホルモン濃度の信頼性と妥当性を検討した。唾液サンプル採集に使用する綿ロープ が、ステロイドホルモン測定に対して影響を及ぼしているかどうかを検討するために、以下の各測定値を比較検討した。(a) 綿ロープに含有されているホルモン濃度、(b) ロープを使用せず採取した唾液サンプル中濃度、(b) ロープを使用して採取した唾液サンプル中濃度、(c) 血液中濃度、(d) 唾液採取後、使用したロープに残留しているホルモン濃度。(改行しない)(1)の結果については霊長類学会において発表を行った。(2)については、現在 解析中である。
【研究項目2】オスチンパンジー4頭のグループを対象として、発情期のメスを見せるという実験操作を行い、それに対する各個体の行動指標と唾液・尿中ステ ロイドホルモン濃度の変化を記録した。結果は現在投稿準備中である。
【研究項目3】個別に飼育されているオスチンパンジー9頭を対象として、新たにグループを形成させ、それに伴う各個体の行動指標と、唾液・尿中ステロイド ホルモン濃度の変化を記録した。中期的変化把握のため、グループ形成直前の内分泌状態、グループ形成3ヵ月後の行動・内分泌状態も同様に測定した。現在、 その結果を解析中である。
動物音声科学:社会的信号としての音声
長谷川寿一
角(本田)恵理(PD)
高橋麻理子(PD)
プロジェクトの目的
音声を発する動物は、ヒトを含め多くの分類群に存在する。本プロジェクト は、脊椎動物から無脊椎動物まで幅広い分類群を対象として、動物の音声が伝 える情報、多種共存機構の中で果たす役割を調べ、音声コミュニケーションを 行う動物に共通してかかる選択圧を整理し、音声信号の進化を考察することを 目的とする。
2003-4年度の成果
1. アジアゾウの超低周波音コミュニケーション
国内の動物園、スリランカの国立公園においてアジアゾウの音声を録音し、ア ジアゾウの超低周波音(20Hz以下)コミュニケーションを確認した。今年度 は、超低周波音のレパートリーの記載を行い、各超低周波音の伝える情報を明 らかにし、スリランカにおける野生アジアゾウの保全に生かすことを目標とする。
2.インドクジャクの配偶者選択
視覚的な性的二型の著しいインドクジャクの配偶者選択において、むしろオス の聴覚的なシグナルが重要な役割を果たすことが示唆されている。昨年度は、 オスが多音節コールを発した後ほどメスの訪問を受けることを明らかにし、予 備的な野外プレイバック実験を行った。今年度は、オスの多音節コールに対す るメスの弁別能力を実験的に確認する。成果の一部は日本進化学会(2004年 8 月)において発表した。
3.淡水性魚類の生殖隔離における音声の役割
近縁関係にある2種の魚(ドンコとイシドンコ)は求愛行動に発音を伴う。求 愛 時の音声を録音し比較した結果、優位周波数において有意差が確認された。 こ れら2種は同所的に分布している場合があり、音声が種間交雑を避けるしく みで ある生殖隔離機構として機能している可能性が示唆される。本年度は優位 周波 数を識別のKey Featureとして利用しているかどうかを明らかにする。
4.キリギリスの2種類の音声の機能分化
キリギリスの鳴き声は“ギース”と“チョン”という2種類の音から構成され る。こ れまでの観察および実験から、“ギース”音は雌誘引、“チョン”音は 他雄への排 斥の信号を伝えている可能性が示唆された。今年度は、これら2種 類の音の機能 分化を実験により確認する。
食行動に関する文化性と自然性
船曳建夫
プロジェクトの目的
幼保園において、園児の食行動について明らかにし、そのデータから人間の食行動における自然性と文化性の関係を解明する。
2003-4年度の成果
(1)<2歳児から5歳児の幼児>彼(女)らにすでにある、調理された味を持つ「食べられないもの」とは何か、それを克服するとは何か、を調査した。明ら かになった点。(A)「嫌いなもの」という個別の問題は、摂食の多少、摂食の速度の中に埋め込まれて見えにくい。「嫌いなもの」のある子供には、個別の味 が嫌いかどうかよりも、園の昼食の時間に、ある速度である量を食べる、という制度への不適応が顕著である。(B)制度の問題とは別に、ある食物についての 忌避の行為は、言葉では味覚の問題として、聞かれ、そのように園児たちによって答えられる(「まずい」)が、その忌避される食物から推論するに、「味」よ りも「感触」である場合も多いと思われる。口中に入れること(触覚)への忌避と味覚の忌避の区別は重要である。すなわち、味覚よりも触覚が問題であれば、 嫌いなものの克服はたんに調理による味との関係における文化性を帯びているだけではなく、危険な食べ物の忌避という自然的な要素が大きいのではないかと考 えられる。
(2)<6ヶ月から18ヶ月の乳幼児>離乳食への適応を観察した。現在、観察途中であり、様々な解釈が考えられ、考察中であるが、いくつかの推定が得られ た。(A)観察者の当初の予測と異なり、乳児としての離乳食への抵抗は、思ったより無いのではないか、と思えてきた。離乳の段階で、自然から文化へ越境す るとしたら、それは味覚においてではなく、むしろ、流動物なり固形物を「咀嚼、嚥下する行為」においてと考えられる。ミルクと同じ液体ならばうまく摂食で きるのではなく、スプーンからスープを飲む行為は、スプーンからであるためにそれを固形物のごとく咀嚼しようとして噛む行為を行うためにこぼしてしまう。 問題となるのは味覚の克服ではなく、咀嚼、嚥下という運動としての克服である。(B)「好きなものが、離乳食の開始と同時に乳児にすらすでにある。ミルク と違う味覚、触覚のものを食べるために「嫌いなもの」があるのは理解は容易だが、好きな味が明確にあるのは驚きである。これには今後霊長類の嗜好との比較 検討が必要と考えられる。
霊長類の脳で発現するタンパク質の比較
吉川泰弘、濱崎裕子
プロジェクトの目的
マカクサル類、チンパンジーなど類人猿と人で脳がどのように違っているか?その素材であるタンパク質を脳の発達及び部位別に比較し種による違いと、特性を 明らかにすることを目的としている。
2003-4年度の成果
1)系統進化に伴い、中枢神経系で発現するタンパク質に時空間的相違がある可能性が考えられる。分析に必要なカニクイザル、チンパンジー、オラウータンの 脳を収集し、凍結保存した。
2)発現タンパクを解析するため、2次元電気泳動のための前処理条件の検討を行った。またチンパンジー、カニクイザル脳を用いて2次元泳動で認められるタ ンパクスポットの比較を始めた。
3)パワーブロット法によりカニクイザル脳タンパク抗原のうちモノクローナル抗体で認識されるものを調べた。1000の抗体中450のタンパクを同定出来 た。
現在は分析するための研究材料収集と分析するための方法を検討している。サル類の材料が最も入手しやすいので、サル類の分析法をもとにして、チンパン ジー、オラウータン、人の脳について分析を進めたいと考えている。
また、近年問題となっている自閉症あるいは多動症のような、広いスペクトラムを持つ神経疾患と胎児、幼児発達脳の機能障害について研究を進めている。特 に、その要因の1つとして疑われている内分泌攪乱化学物質などの影響をラットやサル類等を用いて神経行動学的に検索したり、神経回路を持つ初代神経培養細 胞系をもちいて研究している。影響のメカニズムを明らかにするために適切な動物モデルを作成して調べることを考えています。自閉症児では社会行動、記憶、 視覚言語よりは聴覚言語に問題が多いと報告されているが、動物モデルでどこまで外挿可能かはまだ不明である。
先端的な形態学手法にもとづいた人類の起源と進化に関する研究
諏訪 元
プロジェクトの目的と成果
本プロジェクトは人類の初源期から現代人の出現にいたる各進化段階における形態進化様式を可能なかぎり明らかにすることを目的としている。特に研究の中核 となっているのは、1990年代に国際共同研究の一環として収集されたエチオピア産の人類化石群であり、これらは570万年前のアルディピテクス・カダ バ、440万年前のアルデピテクス・ラミダス、それ以後のアウストラロピテクスとホモ属各種を含む。これらについて第一次の形態学的研究に携わると同時 に、マイクロCT装置を使用した先端的な形態解析研究を展開している。
2004年度には、国際共同研究の一環として、カダバ猿人、ラミダス猿人、アナメンシス猿人などの未発表もしくは中途発表標本について、形態学的基礎研 究に従事した。これらについては、今後順次、注目度の高い国際誌において発表する予定である。また、特にカダバとラミダス猿人については、エナメル質厚さ の進化とその系統論上の意義が世界的に注目されているが、従来の議論は化石の自然断面もしくは比較標本の切断面上のデータに依存しており、そうした方法論 的限界のもとで議論されてきた。本研究ではこうした限界を打破するため、カダバ猿人とラミダス猿人の歯の高精細マイクロCTデータを整備すると共に、他の 化石ならびに現生の比較標本についてCTデータを整備してきた。また、エナメル質厚さについて、3次元ベースの新しいの解析方法を開発してきた。本年度は 特に、200点ほどの現代人臼歯標本についてマイクロCTデータの解析を進め、線計測を用いた臼歯のエナメル質厚さの評価について、最適な方法論を導出し た。同時に、現代人の臼歯におけるエナメル質厚さとエナメル象 牙境形状に関する新しい知見を得、これを発表した(2004年10月学会発表、2005年3月論文発表)。より新しい時代の人類進化に関する研究として は、2004年10月に、100万年前のダカ原人の頭蓋冠化石、16万年前の世界最古の現代型ホモ・サピエンスのほぼ完形な頭蓋骨化石(ヘルト人の大人と 子供の頭蓋骨標本)のマイクロCT調査を実施し、目下その3次元ボリュームデータのセグメント化、表面レンダー画像化、三次元モデリ作製などを実施してい る。ダカ原人についてはバーチャル・エンドキャストを作成し、脳容量を推定し、従来の伝統的手法と比較した。
ヒトー類人猿(チンパンジー)での情動関連遺伝子の比較研究
石田貴文(大学院理学系研究科・生物科学専攻)
西岡朋生(COE「心とことば」PD)
研究協力者:山本ライン(大学院理学系研究科・修士課程)
プロジェクトの目的
本研究はヒトらしさを分子から解き明かすことを最終目的とする大枠のなかで、精神・心理分野につながる情動関連遺伝子に焦点をあて、ヒトと類人猿間での異 同をしらべ、種の特性に迫ること、また、「病は気から」を検証するため、ウイルス感染に対する免疫指標の動態を検索することを目的とした。
2003-4年度の成果
今年度は、統合失調症・新奇性探求・ADHADとの関連が疑われているコレシストキニン、ニューロペプチドY、及び受容体関連遺伝子の比較ゲノム研究をお こなった。対象は、チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・テナガザルである。これら4つの遺伝子について、エキソン部分の塩基配列を決定し、発現・機能 に変化を起こし不安行動に影響を及ぼす可能性のある変異を検索し以下の結果を得た。NPY・NPY1R・CCKAR・CCKBRともアミノ酸配列はマウス からヒト及び類人猿までよく保存されていたことから、これらの遺伝子は機能的に重要な働きをしているためにヒト化の過程においても強い純化淘汰を受けてき たことが推測された。NPYタンパクで見つかったアミノ酸置換のうち、Arg6Gln(オランウータン)・Gly8Arg(チンパンジー・ボノボ)はシグ ナルペプチド上にあり、その極性を変化させる。ヒトNPYではLeu7Pro多型はうつ病等との関連を示す報告があり、これら3つの変異がNPYタンパク の分泌に与える影響についての検討が必要である。NPY1R・CCKBRにおいて、受容体タンパクの構造を変化させ、リガンドとの結合能を変化させうるバ リアントを見いだし、これらタンパクの発現・機能変化に関連する塩基置換について、in vitroの検索の足がかりが出来た。
一方、「病は気から」に関しては、チンパンジーを対象に社会内での相克・地位といったパラメータが免疫系に与える影響を調べるための、潜伏感染ウイルスの 活性化を指標とした検索スキームを完成した。具体的には、血液中のウイルス粒子数、ウイルスに対する抗体量、さらに非侵襲的方法として唾液中のウイルス量 をモニタリングすることができた。本法と他のストレスマーカーとを併用し「心と病」にアプローチをめざす。
心理言語科学部門
ベイズ的アプローチによる遺伝決定係数の推定
繁桝算男、大江朋子、星野崇宏、岡田健介
プロジェクトの目的
双生児法に対し、いくつかの変数に対して、観測値を得た後、その変数群全体に対して、遺伝と環境がどのように影響しているかについて、従来の方法よりも、 より的確で、かつ、詳細な推論を可能にする方法を開発する。本方法の理論的方向は、ベイズ理論によって与えられ、実際的方法は、数値的シミュレーション手 法、MCMC法によってなされる。
2003-4年度の成果
モデルは、次のとおりである。得られた観測ベクトルを、遺伝による部分、共有環境による部分、独自環境による部分に分ける。さらに、遺伝による部分と共有 環境による部分は、他因子モデルによって、少数の因子によって説明されるとする。このモデルのパラメータについて、同時事後分布、および、完全条件付分布 を求め、ギブスサンプリングのアルゴリズムを確定した。また、多次元における複数の遺伝決定係数を新たに定義した。そのプログラムを完成し、Kerry Jang教授(University of British Columbia)のデータに適用した。この成果は、2005年5月のPrfessor S.J.Pressのretirementを記念するシンポジウムの招待講演として発表される。
このモデルおよび推論の手法は一般的なモデルであり、このモデルの中で、因子数の決定、特定化する因子負荷量の位置の特定など下位モデルのモデル選択が必 要である。そのための方法論として依然としてベイズ的な方法が有力であるが、現在のところ計算量が膨大になる。そのために、しばしば、近似が必要とされる が、従来の近似には理論的にまた実質的に不十分な点があった。その点を改良した方法論は、岡田、星野、繁桝の連名によって、2005年7月の International Meeting of Psychometric Societyにおいて発表される。
名詞化・使役の心的表象に関わる実証的研究
伊藤たかね
小林由紀(ポスドク研究員),金丸一郎(学部4年)
プロジェクトの目的
日本語の名詞化および使役については、言語学的な側面および失語研究の先行研究から、ネットワーク的記憶による語形成と演算処理による語形成という二つの 異なるタイプが存在すると言われている。このような二分類の妥当性を、行動実験及び脳波測定によって健常者の言語使用という側面から実証することを目的と する。
2003-4年度の成果
今年度は,名詞化についての行動実験を中心に据えて共同研究を行った。「-さ」と「-み」の名詞化(例「厚さ,厚み」)についてのプライミング実験,「- さ」と連用形名詞(例「占い」)についての頻度効果実験を実施した。前者では,「-さ」名詞は原形(「厚い」)と同じプライミング効果を示し,「厚さ」は 「厚(い)」という原形と「-さ」という接辞とに分解して処理されていること–すなわち,「-さ」接辞付加は規則による演算処理であること–が示唆さ れた。一方,「-み」名詞は弱いプライミング効果しか示さず,「厚み」は分解せずに処理されること–すなわち名詞形自体がレキシコンに記憶されているこ とが示唆された。これに対し,頻度効果実験では,規則的な「-さ」名詞が生産性の低い連用形名詞同様にレキシコンにリストされている可能性を示唆する結果 を得た。これら2実験から得られた「-さ」名詞についての結果は,相互に矛盾するように見えるが,ドイツ語の先行研究でも同様の結果が出ており,規則的な 派生語形成はこのような二面性(分解処理されていることを示唆する性質と同時にレキシコンに記憶されている性質をも示す)を持つものと思われる。この結果 をどのように解釈すべきか,語形成の新しいモデルの提示と,その妥当性を検証できる実験デザインの考案を視野にいれて,検討を行っている。この共同研究の 成果は金丸の卒業論文として提出され,一高賞を得た。
なお,これらの実験以外に,伊藤は他大学の共同研究者とともに使役動詞に関わる事象関連電位計測実験を行い,規則と演算という二つの異なるメカニズムを 仮定する語形成モデルを支持する結果を得た。この成果は昨秋の日本言語学会で発表し,米国の認知神経科学会においても発表する予定である。小林は,従前か らの擬音語・擬態語に関する研究成果を米国認知科学会において発表した。また,今年度行った日本語ガーデンパス文の処理についての研究成果を日本心理学会 にて発表する予定である。
認知言語学の観点からの言語の多様性についての統合 的理論の構築
西村義樹、大堀壽夫
PD:ルタイワン・ケッサクン
院生:山泉実、古賀裕章、ユリア・コロスコワ、エバ・ハッサン
プロジェクトの目的
言語の普遍性と多様性について,その概念的基盤やコミュニケーション上の 機能という観点から考察する.認知言語学(西村)と機能的類型論(大堀)と いう,理念の多くの部分を共有しつつも,有機的統合の試みがなされなかった 両分野について,統合的理論を提出すべく研究を進める.この計画を推進する ため,RAと各国語母語話者を雇用し,積極的な意見交換のもとに新しいアイデ アを追求する.先を見すえた研究グループの組織作りと同時に,上記の二つの テーマについて研究成果の発表をアグレッシヴに行う.若手研究者のための国 内学会出張予算も4件ほど予定している.
2003-4年度の成果
1)研究:西村は認知文法論について精力的な研究を行い、自然言語の文法 におけるメトニミー効果を分析した。その成果は『レトリック連環』として刊 行された。また、編著『認知文法論』が近日中に出版される予定である。大堀 は接続構造および文法化について研究を深化させ、論理接続語の類型論的側面 について論文を公刊した(Coordinating Constructionsおよび『対照言語学の 新展開』)。また、文法化についての論考は、日本語学会の機関誌に掲載予定 である。および、大堀企画によるVan Valin教授の連続講演会と英語学会にお ける今井むつみ氏(慶應義塾大学)を加えてのワークショップ”Linguistic Typology and Language Acquisition”において、言語構造の類型と言語発達と の関係について理解を深化させた。
2)教育:院生による国内学会への出張を5件(博士3件、修士2件)支援 した。うち博士の3件は研究発表を行った。また、沖縄への方言調査のフィー ルドワークを支援した。
3)アウトリーチ:本COEプロジェクトの理念、および認知的・機能的言語 研究の成果をより多くの人々に知ってもらうため、5月には公開ワークショッ プ「認知言語学の学び方」を堀江薫教授(東北大学)を招いて西村、堀江を講 師として行った(参加者約180人)。7月には柴谷方良教授(ライス大学)を 招き、”Form and Function in Functional Linguistics”と題する講演会を行 った(参加者約50人)。11月には上記Van Valin教授による連続講義とワー クショップを主催した。3月にはMichael Tomasello教授(マックス・プラン ク深化人類学研究所)を招いて”Construction a Language”と題する講演会を 行う予定である。
人対人のコミュニケーションにおける,言語に至る以前の,視 聴覚情報処理のレベルにおける情報処理の役割
佐藤隆夫
川島貴之(COEPD),丸谷和史(インテリジェントモデリングラボラトリーPD)
谿祐介・中島豊(大学院生)
山崎真司,浅岡百々(学部生)
プロジェクトの目的・2003-4年度の成果
本年度は,聴覚の音源定位,人間の指さし行動の精度の2つの問題に関して重点的に検討を進めた.
音源の定位は,人間相互の意思伝達に欠かせない基本的な認知能力でり,左右耳における入力の強度差,時間差が重要だということが既に知られている.他の様 々な聴覚処理において,数kHz以上,以下の周波数帯域では処理の様態が異なることが知られており,音源定位では,低い周波数域の音に関しては,音の波形 の位相差に基づいていることが判っている.しかし,高周波数域での音源定位に関しては,ほとんど何も知られていない.そこで,高い周波数の音に低い周波数 で振幅変調を加えた刺激を用いた実験を行い,高周波数域での音源定位は,被変調波の位相差では無く,包絡線(変調波)の位相差に依存することを明らかにし た.さらに音源定位に関する順応実験を行った結果,包絡線の両耳間時間差に関し,選択的なチャンネルの存在を確認することができた.
人間相互のコミュニケーションの場面で,話題の対象となるターゲットを指差すことがしばしばある.こうしたコミュニケーションにおいて,発進側がどの程 度,正確に対象を指さし,また,受信側が,相手の手から指さされた方向をどの程度,正確に知覚しているのかという問題は,コミュニケーションにおける指さ しの意味について多くの示唆を与えてくれる.そうした問題への取り組みの第一歩として,発進側の指差しの精度について検討を行った.その結果,通常の状態 での指さし精度は水平方向についてはかなり高いこと,その一方で,垂直方向についてはターゲット上方へのずれが存在することが明らかになった.この垂直方 向のずれは観察距離の増大とともに増大する.さらに,指差し動作中の視覚的フィードバックが無い状態では,この上方へのずれは消失し,同程度の水平方向へ のずれが認められた.ただし,視覚情報によるフィードバックが存在しなくても,指差しの精度が大幅に悪化するということは無い.これらのことから,視覚情 報によるフィードバックが無くても,通常状態での指さしはある程度の正確さで遂行できること,さらに,視覚情報の利用によって水平方向の精度が向上する一 方で,垂直方向の精度の悪化がもたらされることが明らかになった.
統合言語科学部門
共通語化と言語変化(北京語の事例)
Christine LAMARRE
LU Jian 盧建
プロジェクトの目的
言語変化には一つの閉じた大系内部の「自発的な」変化と、複数の言語体系が接触することによって生じる変化など、いくつかタイプがあると考えられている。 後者のタイプも、社会的状況によって(植民地・戦争による占領・移民など)多様であるため、実証が困難で、モデル化も難しい。本研究は、巨大国家中国の標 準語である北京語を事例にし、あることばを使用する共同体の規模拡大及び組織の複雑化によって言語の構造がどう変化するかをみる。
具体的に、北京語が位置する「北方中国」の方言のフィールドデータと、清朝の話しことばを反映する文献データと、現代の標準語として定着した北京語を基 礎とする「現代標準中国語」の三種のデータを照らし合わせて、言語変化のうち、コイネー化による現象を特定し、その原因と過程を分析する。
本プロジェクトでは空間移動と限界性の問題を取り上げることによって、大堀・ラマールプロジェクトとリンクさせ、前者は「言語変化」を軸にし、後者は共時 的な視点でタイポロジーを軸にする。
2003-4年度の成果
・COE主催国際ゼミ「北京語・共通語・北方語:文法の尺度から見たコイネー化と言語変化」(2004/3/13駒場)
・若手研究者招聘事業:ライデン大学PD研究員 Katia Chirkova 氏を招聘(2003/3)
・共同執筆論文(Chirkova & Lamarre) “[V zai L] construction paradox and meanings in Peking Mandarin” 完成、投稿中【この論文では、ラマールの北方方言のフィールドデータと文献調査に基づいて、コイネー化によって標準語で意味が拡張し たと思われる特定の構文「V在+場所」(「本をデスクに置く」タイプの文)を論じる。Chirkova 氏の90年代後半の北京語のデータを用いて、その構文の意味変化の過程を詳細に記述し、いままで標準語を「閉じた体系」として捕らえた記述によって説明し そこなっていたところを明らかにできた。また変化のルート(どういうタイプの動詞から感染が起きるか)も特定できた。】
空間移動の言語表現の対照研究
大堀壽夫・C.ラマール
酒井智宏、ケッサクン・ルータイヴァン、ルシアナワティ
古賀裕章、守田貴弘、雷桂林、林立梅、石賢敬、遠藤智子
小嶋美由紀
プロジェクトの目的
空間移動の表現法の認知科学的・類型論的研究を進める。とりわけ、このテーマについて研究が比較的に浅いと言えるアジアの言語(日・中・タイ・インドネシ ア・朝鮮語など)のデータの収集・整理・分析を通じて、現行の仮説の検証をしながら、新たなパラメータも提示する。検討には、単文レベルの文構造の側面か ら(ラマール)と、談話内での構文の機能という視点から(大堀)と二つのアプローチを導入する。
2003-4年度の成果
・院生研究会:一ヶ月2回のペースでTalmyを中心に、空間移動表現のタイポロジーに関する研究論文を読む
・PD・RAなどによるデータ収集・整理
データ収集:日本語(Talmyの例文、コメントつき)、インドネシア語(同)、中国語(北京語のみ、テレビドラマ3種より、文学作品より)、フランス語 (日・仏対応例文集、「恍惚の人と仏語訳」、タイ語(Harry Potter The Chamber of secretsとタイ語訳から)、朝鮮語(研究紹介)。更に未整理状態であった大堀のドイツ語・英語のデータを整理(文字起こし)した。
・ラマールが中国で陜西・山西・河北で方言調査(2004/9)、学会発表(天津のIACL 2004/6、西安2004/9、中国語学会2004/11、英語学会2004/11、台湾2004/12)
・共同執筆論文 (Tang & Lamarre) 執筆中 “The linguistic encoding of motion events in the Guanzhong dialect (Shaanxi, China) — with a reference to Standard Mandarin —”
主な活動
・COE主催国際セミナー「アジアから見る空間移動表現のタイポロジー:タイ、台湾、陜西」(2004/12/18駒場)
・若手研究者招聘:中国社会科学院(院)、唐正大(2週間)(2004/12)
談話能力の発達研究
大堀壽夫
南部美砂子(PD)
プロジェクトの目的
本プロジェクトでは,談話能力の発達的変化の特徴を明らかにするため,特に視覚刺激の言語化に焦点を当て,物語産出と認知発達・認知特性の関係を厳密に 検討する実験心理学アプローチを試みる.予備的な検討として,成人(大学生)を対象とした集団実験を行い,二重課題法によって認知的負荷を与えた際の記 述データを収集,分析する.
2003-4年度の成果
二重課題による認知的負荷が物語産出に及ぼす影響を明らかにするため,映像刺激の描写をメイン課題とする集団実験を行い,視聴後にそのまま内容の記述 を行う統制条件と,記述と同時に二重(サブ)課題を与える3つの条件の比較を行った.
図形書写条件:記述開始後60秒ごとに,ポンという音とともに○△□のいずれかの図形がスクリーン上に呈示され,別紙にそれを書き写す.
文字判断条件:同様に,ひらがな1文字が呈示され,1つ前のひらがなと同じなら○,違う場合は×を記入する.
空間判断条件:同様に,3×3の9つのマスのうち1つが黒く塗りつぶされたものが呈示され,1つ前のマスの位置と同じなら○,違う場合は×を記入する.
実験により,統制条件16名,図形書写条件18名,文字判断条件14名,空間判断条件17名の記述データを得た.文を単位とする産出量については,条 件間の差異が示されなかった.さらに現在,各シーンへの言及の有無や移動・空間表現の特性など,質的側面の分析を進めており,認知的負荷の有無および性 質の違いに応じた物語産出の特性について検討する.本研究は,日本認知科学会第22回大会において発表予定である(発表タイトル「ながら状況における認 知的負荷と言語表現:ビデオ刺激の記述データの分析」).
Wh-expressions, Plurality and Quantification in Japanese
Christopher Tancredi (タンクレディ・クリストファー)
Objectives
To determine the semantics of wh-expressions, definite and indefinite descriptions, and mo in Japanese.
Results
This project focused on the wh-mo construction in Japanese, as illustrated in the following example. (i) 誰が書いた論文も面白かった。Together with Miyuki Yamashina, I developed a uniform semantics for wh-expressions, mo, noun phrases and concessive clauses that can account for the following properties of this construction: (a) Example (i) is generally given a universally quantified interpretation, entailing that for every person who wrote a paper the paper was interesting; (b) If an adverb like taitei is added to (i), then the sentence becomes ambiguous between: for every person who wrote papers, most of their papers are interesting; and for most people who wrote a paper the paper was interesting; (c) Whmo NPs can co-occur with some predicates that typically require a plural subject, such as atsumaru or issho-ni V. However, they do not combine with other such predicates, like wa-ni naru. (ii) 誰が投げた石も一緒になった。(iii) #誰が投げた石も輪になった。The analysis we developed can be summarized as follows: I: Wh-expressions introduce alternatives; II: Semantic composition applies to all alternatives until a wh-sensitive operator is met; III: Mo is a wh-sensitive operator which sums the alternative denotations of its sister into an i-sum; IV: Quantificational force for the mo-phrase comes either from a covert distributive operator that operates over i-sums to give a universally quantified interpretation, or from an overt adverb of quantification. I presented the basics of this analysis in invited talks at Princeton University and the University of Maryland. Then in the paper presented at the Strategies of Quantification conference in York, England and currently under review, I combined the analysis with a choice function analysis of indefinites by intensionalizing the latter. In a paper I presented at the 9th annual Sinn und Bedeutung conference, held in Nijmegen, Holland, we further combined the analysis with an analysis of plurality, arguing that the latter must acknowledge two distinct types of plural entities, groups and i-sums, as first proposed in Landman (1989).
References
Landman, Fred, 1989, Groups I, Linguistics and Philosophy 12, 559-605.
Schwarzschild, Roger, 1996, Pluralities, Kluwer Academic Publishers.
Published papers resulting from this project:
Yamashina, Miyuki and Christopher Tancredi (2005) “Degenerate Plurals” Proceedings of Sinn und Bedeutung 9, edited by Emar Maier, Corien Bary & Janneke Huitink. (To appear April 2005 at www.ru.nl/ncs/sub9)
Conference talks resulting from this project:
Yamashina, Miyuki and Christopher Tancredi, “Degenerate Plurals” Sinn und Bedeutung 9, Nijmegen
University, Nijmegen, Holland, November 2, 2004.
Tancredi, Christopher and Miyuki Yamashina, “The interpretation of Indefinites in the Japanese wh-mo
Construction,” Strategies of Quantification, University of York, July 17 2004.
受動構文の普遍相と個別相:”passive prototype”と日本語受動構文
坪井栄治郎
プロジェクトの目的
Shibatani (1985)以来、受動構文の類型論的研究にお いてはいわゆる”passive prototype”の存在が想定されていることが一般的と 思われるが、この想定の妥当性には、様々な面で検討されるべき点がある。本 プロジェクトでは、これまで行ってきた日本語受動構文の分析をそのような観 点からさらに進めることを第1の目的とし、それによって通言語的・普遍的な 妥当性を持つものとして想定される各種の文法範疇や構文概念の妥当性を問い 直すことを第2の目的とした。
○2003-4年度の成果:第1の目的に関しては、非情物主語のニ受身が一般的に許容 されないことをある種の有生性階層に基づく制約の結果とするような考え方の 批判的検討を行った。そうした有生性階層は、様々な現象の記述において頻繁 に言及されるものだが、そうした制約はあくまで観察される言語事実の一種の 要約でしかなく、元々それ自体が説明されるべきものであること、さらに、そ うした制約の結果として記述できる現象と本質的に同じと思われる現象が他に もあること、などを考え合わせて、そうした制約の背後にある日本語の他動的 事象の構成原理自体についての考察を行い、通言語的な一般化の形で捉えられ る部分も多いものの、それからは漏れてしまう個別言語固有の部分もあり、さ らには表れとしては同じ形を取っても、そのメカニズムは必ずしも同じではな いこと、などを明らかにした。第2の目的については、主にsemantic mapアプ ローチを対象として理論的な考察を行った。semantic mapアプローチにおいて は、文法概念が一定の形で配列された意味空間が意味の普遍的な側面を、その 意味空間をどのように文法形式で切り分けるかが個別言語固有の意味の側面 を、それぞれ捉えるものとして想定されるのが一般的だが、後者を尊重すれば 意味空間の普遍性が維持しがたくなることや、意味空間内の文法範疇の配列を すべての言語に対して矛盾なく行うことは無理であること、semantic mapアプ ローチの有効性は、それが主として表現機能に関わるものであることによるも のであり、個別言語の分析においては個々の形式がそのような表現機能を果た すようになる理由を求める必要があり、それには事象構成の基盤にある認知モ デルについての考察などが不可欠であることなどについて考察を行った。この 成果は2005年5月にフランス・ボルドーで行われるFrom Grammar to Mind Conferenceにおいて” Semantic Maps and Grammatical Imagery: Universal and Language-specific Aspects of Grammatical Meanings”というタイトルで 発表する予定である。
自然言語における意味計算に関する研究
矢田部修一
戸次大介,早川聖司
プロジェクトの目的
当プロジェクトは、自然言語における意味計算のあり方を明らかにすることを最終目標とするもので、特に、コンパクション駆動意味合成理論という、統語構造 ではなく韻律構造に基づいて意味合成を行う理論の妥当性を検証することを中心的な目的とするものであるが、今年度は、以下の3点を重点的な目標とした。ま ず、第一に、コンパクション駆動意味合成理論を検証する際の重要な検討領域となる、等位接続構造に関して、主辞駆動句構造文法(HPSG)の枠組みに基づ く包括的な理論を構築すること。等位接続構造の中で、coordination of unlikesと呼ばれるタイプのものはHPSGにおいては取り扱うことが困難であるという予測が広く受け入れられているが、その予測は間違いであること を示す。 第二に、やはりHPSGの枠組みの中で、MRSの手法を用いて、焦点化に関する理論を構築すること。焦点化の問題領域は、量化の問題領域と並んで、コンパ クション駆動意味合成理論の妥当性を示す証拠を提供してくれることを期待できる領域である。第三に、量化子の累積読み(cumulative reading)に関する理論を精緻化・検証すること。累積読みの問題は、量化の問題領域において何事かを厳密に論証しようとする際には避けて通ることの できないものである。
2003-4年度の成果
矢田部は、The 11th International Conference on HPSGの会議録に出版した論文で、coordination of unlikesに関する、HPSGの枠組みを用いた理論を提示し、その理論においては、each-conjunct agreementとでも呼ぶべき、単純な現象でありながらこれまでいかなる理論においても妥当な記述が行なわれてこなかった現象にも正しい記述が与えら れること等を示した。また、議論の過程の中で、each-conjunct agreementという現象の存在は、agreement一般に関する「標準的な」理論に対するB. Ingriaの批判が正しいことの証明となっていることを指摘した。戸次は、累積読みなどに関する理論の基盤となるTyped Dynamic Logicに圏論による意味論を与えることを試みており、現在、いくつかの基礎定理の証明まで 終えている段階である。そして、早川は、矢田部とともに、統語的構成素を成さない単語列が焦点として解釈される現象に関して論文を執筆中で、その論文を 2006年8月にエディンバラで開催されるESSLLI 2005で発表すべく準備を進めている。
日本語と朝鮮語の対照研究
生越 直樹
尹盛熙(RA)・円山拓子・金智賢・韓キョンア(大学院生)
プロジェクトの目的
類似点が多いとされる日本語と朝鮮語を対照し,両言語の異同を明らかにすることにより,言語の普遍性と個別性について考えてみたい。
両言語の対照研究は少なく,今後その研究の進展が期待されている分野だと考える。言語情報科学専攻には韓国人留学生も多く,日朝対照研究をテーマとして いる学生も多い。扱うテーマは限定していないが,特にモダリティに関してはまだ研究が少ないので,特に力を入れて取り組む予定である。
2003-4年度の成果
日本語と朝鮮語の対照研究の研究最前線の状況把握と若手研究者の育成を兼ねて「日韓対照研究会」を発足させ,今年度は3回研究会を開催した。各研究会では 対照研究あるいは朝鮮語研究で活躍されている方に講演をお願いした。第1回(12月)は鷲尾龍一氏(筑波大学)に「」,第2回(2月)は金倉燮氏(東京大 学/ソウル大学)に「」,第3回(3月)は塚本秀樹氏(愛媛大学)に「」というテーマでお話しいただいた。また研究会では,同時に大学院生の研究発表を行 い,今年度は4名(尹盛熙,円山拓子,金智賢,韓キョンア)が各自研究しているテーマについて発表した。「日韓対照研究会」は今後も年2~3回のペースで 開催する予定である。
研究会とは別に,大学院の授業を利用しながら,日本語と朝鮮語のモダリティについての対照研究も進めており,すでにレポートの形でいくつかの成果が出て きている。来年度は,これまでの研究会の成果とモダリティ研究の成果を報告書としてまとめる予定である。
音韻論における理論的および実験的研究の進展
田中伸一, 西村康平,高野京子,邊京姫(以上,博士課程学生),
呉偉原,明石香保里(以上,修士課程学生),孫範基(以上,研究生)
プロジェクトの目的
本研究では,海外における音韻理論に関する最先端の研究情報収集を行いつつ,日本における音韻理論の発展と発信のための一大拠点を,わが東京大学総合文化 研究科の言語情報科学専攻に形成することを最大の目的とするものであった。すなわち,音韻理論研究のための継続的な人的ネットワークの拠点を目指し,それ により世界に発信できる独創的な音韻理論研究を行うための基盤づくりを行った。プロジェクト名は「音韻理論」を研究対象のテーマとしているが,その発展の 早さとポテンシャルを考えて狭い領域に留まることはせず,周辺分野とのインターフェイスを含む理論・実験双方からのアプローチを含むものとした。従って, 音韻論・音韻史・最適性理論・認知音韻論・実験音韻論・調音音声学・音響音声学・聴覚音声学・認知科学など,広く「音」に関わる領域を巻き込んで,音声科 学一般の理論的基盤になり得るような音韻理論の拠点形成を目指した。現状では,音韻理論に関する広い人的ネットワーク機能を備えた研究・教育拠点というも のは,日本に存在しなかった。しかし,このプロジェクトの遂行により,「東京音韻論研究会」という形で,1年をかけてその基礎づくりを終え,上記の目標を 達成することができた。
2003-4年度の成果
2004年度は,東大を拠点として「東京音韻論研究会」を月1回の頻度で開催し,日本人研究者や海外の研究者を招聘したり,あちらに派遣することを通じ て,各地域の研究者を繋げてネットワークを作ることを遂行した。参加者には東京大学を始め,筑波大学,千葉大学,茨城大学,東京都立大学(首都大学東 京),早稲田大学,上智大学,獨協大学,明海大学,青山学院大学,松蔭女子大学,東京家政大学,北海道医療大学,山口大学,オハイオ州立大学,インディア ナ大学,ブリティッシュコロンビア大学,マサチューセッツ大学などの関係者が含まれ,常時20名以上のメンバーが揃った。また,私や大学院生などの学内関 係者も積極的に研究発表を行い,情報発信を行った。また,「東京音韻論研究会」の開催のほかに,海外を中心とする音韻理論に関する勉強会(輪読会)を,学 外を含めた若い研究者用に週1回開催し,学内の大学院生用に教育的配慮に満ちたオリジナル研究発表会も,週1回開催した。それにより,言語情報科学専攻を 拠点として,広く関東を中心に音韻理論教育の機会を与え,この分野の底辺の拡大と底上げを行った。このような月1回の「東京音韻論研究会」開催,週1回の 勉強会(輪読会),週1回の学内研究発表会の開催を,継続的な研究・教育拠点の大きな柱としたほか,「東京音韻論研究会」のホームページ(http: //gamp.c.u-tokyo.ac.jp/~tanaka/TCP%20HP/INDEX.htm)を日英語版で作成し,その目標・沿革・過去の例 会・今月の例会・会場のアクセスなどを記し,広報に努めた。
以上を含め,その他今年度行った事業を整理すると,次のようになる。
・情報発信
1) 月1回の「東京音韻論研究会」開催
2) 日本の他の研究会への派遣
3) ホームページ作成・管理(http://gamp.c.u-tokyo.ac.jp/~tanaka/TCP%20HP/INDEX.htm)
・情報収集
1) 週1回の勉強会(輪読会)・学内研究発表会の開催
2) 海外における最先端研究の調査としての海外研修
3) 日本および海外の研究者の招聘
話しことば談話の分析:心的態度表意とその文法
藤井聖子(プロジェクト担当者、言語情報科学 助教授)
ラマール・クリスティン(統合言語科学部門リーダー、言語情報科学 教授)
作田千絵(修士課程2年 技術補佐員)、 青木玲子(修士課程2年)
幸松英恵(博士課程1年 RA)、車田千種(修士課程 技術補佐員)
石田邦子(修士課程)、パルティナ・エレナ(博士課程)
植田榮子・加藤陽子(博士論文執筆中)
プロジェクトの目的
1)日本語と英語の話しことばにおける心的態度表意メカニズムを、実際の話しことば談話(会話、対談、独話)の分析を通して明らかにし、その機能と表意手 段の文法を、「語用標識化」の観点から動的に探究する。
2)この目的を踏まえた話しことばの分析のために、a) 話しことば分析における諸理論の吟味を行い、b) 話しことば談話データ(会話、対談、独話)を収集し、c) 言語分析用資料を構築し(収録視聴覚メディアの電子ファイル化・精密な転記作成・転記ファイル化)、d) 基礎的要素に関する分析(Intonation Unitsと統語構造との関連、Intonation Unitsの機能構造、選好的項構造、指示表現、談話標識、それらの日英語対照、等)を、「談話と文法」の観点から行う。
2003-4年度の成果
話しことば分析に関する諸理論を踏まえ、話しことば資料構築の方法論を確立し 構築作業を進めることを活動の中心とし、以下のような成果をあげた: 1) 話しことば分析における諸理論(発話単位 Intonation Units, 転記法理論、発話の統語的ラベリング・機能的ラベリング、他)の概観・吟味; 2)「語り」及び「自然会話」の統一的収集方法の確立; 3) 話しことばのデータ処理に使用するパソコン環境・ソフト・機器等の調査・整備; 4) 本研究で用いる転記法の確立; 5)「語り」データの収録と転記(日本語母語話者、英語母語話者、日本語非母語話者); 6) 「自然会話」データの収録と転記(日本語母語話者)。
本プロジェクトには言語情報科学の大学院生が参加し、共同研究体勢の中で研究教育を進めてきた。本研究で構築した話しことば資料を用いた共同研究の一貫と して、日本語と英語におけるイントネーション単位と統語構造との関連の分析(作田・藤井)、日本語の語りにおける指示表現・選好的項構造の分析(青木・藤 井)の第1段階を完了した。(これらの共同研究の成果は、言語情報科学平成16年度修士論文で報告された:Intonation Units in Japanese and English、Chie Sakuta.「日本語の語りにおける指示表現」青木玲子.)来年度以降データを増加してこれらの分析を継続し、英語との対照も精密化する計画。同時に、 話しことばにおける機能語(接続形態素、補文標識、他)の発話末用法・終助詞化の研究を進めてきている。特に、理由・条件・譲歩を表わす接続形態素の発話 末用法(藤井・幸松)や、引用を表わす補文標識の発話末用法(藤井・加藤)を分析した。研究成果の一部は昨年7月の国際構文理論学会(於マルセイユ)にお いて発表し、2005年度の国際認知言語学会など国内外の学会で発表する予定である。
方言文字の表記から見た方言の広域共通語化–表記の変異と変 遷
吉川雅之
プロジェクトの目的・2003-4年度の成果
本研究は19世紀を考察対象時期として、有力な地点方言が広域共通語へと成長する過程を、文字表記面から考察する基礎的研究である。この成長の過程は、中 国語圏に起こった言語の近代化(国語の成立など)と時期を同じくしたと考えられる。広域共通語へと成長するさいに確立される書記言語としての機能(および その機能が育まれるか否か)は、その方言の使用社会を1つの共同体としてまとめる上で重要なものであり、方言語彙を表記する特有な方言文字の使用が広域共 通語化に与えた役割を検証する。
今年度は、欧米人が中国語の有力な方言(広東語や上海語、客家語)について著した辞書や教材、聖書や教義書の文字使用を中心にデータ収集を行ってきた。 方言文字が歴史的に(a)どの種の資料において多用される傾向にあるか、(b)既存の文字体系とどのような関係の下に併用・混用されたか、についても配慮 しつつ分析を行った結果、広東語については次の知見が得られた。「彼らの著述に見られる特徴の一つに、漢字表記の困難な音節(擬声語・重ね型形容詞を含 む)を排除せず、言語音として出現するの全ての音節を網羅した音韻体系を提示した点が挙げられる。音韻体系の構成要素として承認されたこれらの形態素・音 節の文字表記としては、(1)漢字表記を用いない、(2)漢字表記を与える、という処理が行われたが、時期が下るにつれ(1)から(2)への移行が見られ る。そして漢字表記を与える場合、(3)新しい字形を創る、(4)既存の字形をそのまま借用する、のいずれかが採用された。だが、ことなる著述間に共通す る字形が固定される(字形の標準化が進行する)までには一定の期間を要したようである。」
2005年3月にはスイス・バーゼル教会図書館で19世紀に著された客家語文献についての文献調査を行った。今後は調査で得られたデータの分析を速やか に行い、文字表記、特に各方言の性格を特徴付ける形態素・音節の表記方法を中心に考察を進め、その方言・資料間での変異、そして通時的な変遷と字形の標準化について学術会議での口頭発表や学術誌での論文発表を行う予定である。
計算言語科学部門
動詞語彙概念構造レキシコンの構築
加藤恒昭
伊藤たかね
畠山真一,坂本浩
プロジェクトの目的
動詞の意味記述である語彙概念構造(LCS)の数千語レベルの計算機処理可能なレキシコンを構築する.構築されたレキシコンは,一般公
開し,言語学,自然言語処理技術のインフラ(言語資源)として普及を図る.また,構築の過程で以下を行っていく.
・LCSの(数千語レベルで矛盾を起こさない)形式的な仕様の確立
・その範囲で説明可能な事象とそうでない事象の分類
・動詞の様々な振る舞いに関する(LCSを通じた)体系化,特徴付け
・上記体系の中に個々の動詞を分類するためのテスト手法の確立
2003-4年度の成果
今期は,日本語和語動詞について,そのLCSを推定するテスト手法の検討を行ない,事前実験等を繰り返して,個人による判断の揺れが少ないアンケート形式 のテストを構築した.このアンケートを言語学の背景を持つ被験者4名に対して,約1000語を対象に実施し,その結果,約半数の489語について3名以上 の一致が得られ,それらの動詞の大部分について妥当なLCSを割り当てることができた.今回のLCSは有限性と状態性に着目した比較的粗い分類からなる体 系であるが,大規模かつ実証的なLCS辞書構築に向けて最初の一歩を踏み出したといえる.また,テスト手法の検討を通じて,打撃動詞や達成動詞としての振 る舞いの関係や「テアル」「テイル」が接続した際の解釈など,動詞の様々な振る舞いについて多くの知見を得ることができた.加えて,今回のアンケート調査 の問題点,例えば,属性を場所に関するものと特徴に関するものとに分類することの難しさや,ヲ格以外の名詞句の振る舞いについての調査 が欠落していたこと,等も結果の集約を通じて明らかとなり,次期のより細分化したLCS体系に基づくレキシコン構築の足がかりも得ることができた.今回の 調査で得られたLCSレキシコンはCOE ホームページ等を通じで順次公開していく.情報処理学会自然言語処理研究会にて1件,言語処理学会年次大会にて3件の外部発表を行った.3月に関連シンポ ジウム「語彙概念構造辞書の構築と応用」を主催し,100名を超える参加者を得た.
移動事象の語彙的表示と統語的投影
中澤恒子
研究目的と2003-4年度の成果
移動を表す動詞は、様態動詞と経路動詞に大別することができる。様態動詞とは、「歩く」など、移動の様態が移動動詞の語彙的意味表記の一部として含まれる 動詞で、経路動詞とは、「入る」など、移動の経路が含まれる動詞のことを指す。Talmy(2002など)は、移動動詞の大半が様態動詞であるか経路動詞 であるかによって、英語(ロマンス語を除く印欧語)は様態動詞言語、日本語(ロマンス語、韓国語)は経路動詞言語であるとしているが、本研究では、その言 語分類の妥当性の再検証を目指す。
本年度は、上記研究の最初の段階として、経路動詞のうち、特に直示的移動動詞とよばれる動詞について、動詞の意味内容に含まれる経路の言語間の比較を行 い、普遍的な経路動詞の語彙的意味表記の形式化を行った。Talmyによると、移動動詞の経路は、「拠点(Ground)」や「ベクトル (Vector)」などの要素を含む。経路は有界性(boundedness)によって大別することができ、「ベクトル」TOで表記される有界経路におい て「拠点」は移動の到達地点を、また「ベクトル」TOWARDで表記される非有界経路において「拠点」は移動の方向を示す。
一般的に、直示的移動動詞は話し手の所在地を「拠点」とする(つまり、「来る」は、話し手のいる場所を到達地点とする移動を表す)とされ、Talmyの 直示的移動動詞の意味表記もそれを踏襲している。しかし、日本語、中国語、韓国語、錫伯語、独語、仏語、伊語などの直示的移動動詞の比較対照によると、直 示的移動動詞の「拠点」や「ベクトル」には、さまざまな多様性と普遍性があることが判明した。(1)直示的移動動詞の「拠点」には、(a)発話時の話し手 の所在地、(b)指示時の話し手の所在地、(c)発話時の聞き手の所在地、(d)指示時の聞き手の所在地があり、(a)と、(b)(c)と、(d)との間 には、各言語において、直示的移動動詞の「拠点」となりえる優先順位がある(たとえば、(b)あるいは(c)を「拠点」とする言語においては、必ず(a) も「拠点」となることが予測されるが、逆は予測されない)、また、(2)直示的移動動詞には「ベクトル」としてTOを表す動詞と、TOWARDを表す動詞 があり、一定の規則性が予想されることがわかった。
移動動詞における「ベクトル」の分布の規則性については、さらに継続して研究を行う。
外国語作文における誤りの自動抽出
田中久美子
プロジェクトの目的・2003-4年度の成果
Automatic feedback is important for language e-learning systems in order to make the system interactive for students and to decrease the teachers’ workload. Recent research trend in NLP related to proofreading is corpus-based, by conducting statistical analysis on a large collection of text data. A bottleneck of this approach is the construction of corpus itself, which requires large human resource for construction and maintainance. Additionally, one issue of corpus construction is the lack of “negative” examples. Usually, people only publish correct writings and not incorrect ones. This problem is crucial for constructing automatic proofreading and assessment tools for writing, because negative examples are needed when looking for mistake patterns.
E-learning language courses offer a natural framework of collecting such corpora. An online exercise can collect dozens of answers with mistake patterns. These can be mined automatically and fed back into assessment tools. As most students study language at universities, a large volumes of language data may be collected in a short term. Note that the e-learning methodology is essential here, as extraction of mistake patterns can be conducted only on digital data.
In pursuit of this objective, we built a web-based e-learning platform called Tenjin. Tenjin provides an interactive environment enabling students to work on assignments and teachers to evaluate them. Tenjin already includes some automatic assessment procedures that evaluate assignments submitted by students. When students upload their assignments, their results are compared with that of teacher’s using dynamic programming algorithm, and the feedback is immediately given to the students. This not only enables the teacher to concentrate on further hands-on evaluation, but also enhances student’s self-learning. This procedure is further to be enhanced by the analysis performed on collection of students’ data.
認知発達臨床科学部門
NIRSおよびEEGを用いた乳幼児の脳活動計測
開 一夫, 榊原洋一
松田剛・伊藤匡(COE PD),嶋田総太郎(学術振興会 PD)
平井真洋・宮崎美智子(博士課程3年)
福島宏器・有田亜希子(博士課程2年)
本堂清佳(修士課程1年)
プロジェクトの目的
ヒト成人の認知活動に関する脳内機序は、fMRIなどのイメージング技術の発展によって近年徐々に明らかにされつつある。しかし発達途上にある小児の脳機 能に関しては殆ど何もわかっていないといってよい.本研究では近赤外分光法(NIRS)およびEEG/ERPの2つの脳活動計測手法を用いることで乳児か ら成人に至るまでの認知発達メカニズムを発達認知神経科学的に明らかにすることを目的とする.具体的には, コミュニケーションの基盤として,自他弁別,自己認知,模倣,母子間相互作用などに焦点をあてた脳活動計測【研究項目1】, 障害児と健常児と脳機能発達の比較【研究項目2】を中心に研究を行う.
2003-4年度の成果
【研究項目1】に関しては,健常成人および乳幼児を対象とした行動実験にあわせて,高密度脳波計を用 いた事象関連電位(ERP)や近赤外分光法(NIRS)による脳活動計測を行い,
(1) 単純反応課題における模倣の効果(ERP実験)
(2) 乳児のバイオロジカルモーション知覚(ERP実験)
(3) 遅延自己映像認知の脳内機構(NIRS実験)
(4) 乳幼児の遅延自己鏡映像認知(行動実験)
といった研究項目を実施した.(1)はNeuroReport誌,(2)はCognitive Brain Research誌,(3)はNeuro Image誌に掲載済みである,(4)は投稿済みである.これらの研究成果を土台に母子間相互作用における脳活動計測実験にも着手している.
【研究項目2】に関しては,発達障害の中でもサバン症候群といわれるアスペルガー障害が示す特異的才 能について認知科学的アプローチを試みた.本研究への参加を承諾してくれた被験者はいずれもカレンダーサバンであり、 これまで諸説紛々であった彼らの記憶術や認知機能が徐々に整理されてきている.また継続的に観察記録をとってきたことで、アスペルガー障害がもつ特有の認 知機能の発達を検討することができた.彼らの持つ障害性は「社会性」にあるとされているが、 発達・社会的関わりに応じてそれらは変容・改善されていく可能性が示唆された.それと同時に彼らが示す社会生活上の困難さにも目を向け臨床的な活動も行っ てきた.このような全体的なアプローチを通じて、ERPやNIRSを用いた実証的研究のための新た な仮説構築へと展開している.
精神病理の発生メカニズムと治療的介入についての認知行動ア プローチ
丹野義彦
森脇愛子、佐藤徳、佐々木淳、山崎修道、小堀修、荒川裕美、佐藤香織、宮田ゆかり、関口陽介、守谷順
プロジェクトの目的
臨床場面や日常場面でよくみられる精神病理(抑うつ・不安障害・統合失調症)について、認知行動理論の観点から、臨床研究や非臨床アナログ研究をおこな う。アセスメント法の開発、発生頻度と記述の研究、発生メカニズム、発生の予測と予防について実証的に検討することを目的とした。
2003-4年度の成果
抑うつについては、自己開示が抑うつにもたらす影響が、被開示者の特性によって異なることを見いだし健康心理学誌に発表し、著書『抑うつと自己開示の臨床 心理学』を出版した。また、不安については、対人不安の発生に素因ストレスモデルが成り立つことを見いだし、性格心理学研究誌およびパーソナリティ研究誌 に発表した。また、不安障害と完全主義の関係を調べ、パーソナリティ研究誌に発表した。さらに、統合失調症については、妄想のアセスメント方法を開発し、 臨床精神医学誌に発表した。また、健常者にも妄想的観念や自我漏洩感が見いだされ、一定の性格特性と関連すること(臨床心理学誌、性格心理学誌、精神科診 断学誌、心理学研究誌)、その発生に素因ストレスモデルが成り立つこと(心理学研究誌)を見いだした。以上の研究成果は、審査論文10本、著書6本(分担 執筆を含む)、総説等5本にまとめられた。
また、本COEとの共催によりシンポジウムや研究会等を企画し、研究成果をより広い視点から提示するとともに、認知行動理論と認知行動療法のわが国への 定着をはかった。とくに、2004年7月に神戸で開かれ1400名の参加者があった世界行動療法認知療法会議(WCBCT2004)においては、本COE との共催でシンポジウムやワークショップや招待講演を10本企画し、のべ1000名の聴衆を集めた。この記録の一部は金子書房より翻訳出版の予定である。 他にも、COE共催公開シンポジウム「認知行動アプローチのフロンティア」、COE共催日本心理学会大会特別講演、COE共催臨床社会心理学研究会 (JACS)、COE共催日本認知療法学会研修ワークショップ、COE共催臨床社会心理学研究会(JACS)などを実施した。