Christine LAMARRE
LU Jian 盧建
プロジェクトの目的
言語変化には一つの閉じた大系内部の「自発的な」変化と、複数の言語体系が接触することによって生じる変化など、いくつかタイプがあると考えられている。
後者のタイプも、社会的状況によって(植民地・戦争による占領・移民など)多様であるため、実証が困難で、モデル化も難しい。本研究は、巨大国家中国の標
準語である北京語を事例にし、あることばを使用する共同体の規模拡大及び組織の複雑化によって言語の構造がどう変化するかをみる。
具体的に、北京語が位置する「北方中国」の方言のフィールドデータと、清朝の話しことばを反映する文献データと、現代の標準語として定着した北京語を基
礎とする「現代標準中国語」の三種のデータを照らし合わせて、言語変化のうち、コイネー化による現象を特定し、その原因と過程を分析する。
本プロジェクトでは空間移動と限界性の問題を取り上げることによって、大堀・ラマールプロジェクトとリンクさせ、前者は「言語変化」を軸にし、後者は共時
的な視点でタイポロジーを軸にする。
2003-4年度の成果
・COE主催国際ゼミ「北京語・共通語・北方語:文法の尺度から見たコイネー化と言語変化」(2004/3/13駒場)
・若手研究者招聘事業:ライデン大学PD研究員 Katia Chirkova 氏を招聘(2003/3)
・共同執筆論文(Chirkova & Lamarre) "[V zai L] construction paradox and
meanings in Peking
Mandarin" 完成、投稿中【この論文では、ラマールの北方方言のフィールドデータと文献調査に基づいて、コイネー化によって標準語で意味が拡張し
たと思われる特定の構文「V在+場所」(「本をデスクに置く」タイプの文)を論じる。Chirkova
氏の90年代後半の北京語のデータを用いて、その構文の意味変化の過程を詳細に記述し、いままで標準語を「閉じた体系」として捕らえた記述によって説明し
そこなっていたところを明らかにできた。また変化のルート(どういうタイプの動詞から感染が起きるか)も特定できた。】
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空間移動の言語表現の対照研究
大堀壽夫・C.ラマール
酒井智宏、ケッサクン・ルータイヴァン、ルシアナワティ
古賀裕章、守田貴弘、雷桂林、林立梅、石賢敬、遠藤智子
小嶋美由紀
プロジェクトの目的
空間移動の表現法の認知科学的・類型論的研究を進める。とりわけ、このテーマについて研究が比較的に浅いと言えるアジアの言語(日・中・タイ・インドネシ
ア・朝鮮語など)のデータの収集・整理・分析を通じて、現行の仮説の検証をしながら、新たなパラメータも提示する。検討には、単文レベルの文構造の側面か
ら(ラマール)と、談話内での構文の機能という視点から(大堀)と二つのアプローチを導入する。
2003-4年度の成果
・院生研究会:一ヶ月2回のペースでTalmyを中心に、空間移動表現のタイポロジーに関する研究論文を読む
・PD・RAなどによるデータ収集・整理
データ収集:日本語(Talmyの例文、コメントつき)、インドネシア語(同)、中国語(北京語のみ、テレビドラマ3種より、文学作品より)、フランス語
(日・仏対応例文集、「恍惚の人と仏語訳」、タイ語(Harry Potter The Chamber of
secretsとタイ語訳から)、朝鮮語(研究紹介)。更に未整理状態であった大堀のドイツ語・英語のデータを整理(文字起こし)した。
・ラマールが中国で陜西・山西・河北で方言調査(2004/9)、学会発表(天津のIACL
2004/6、西安2004/9、中国語学会2004/11、英語学会2004/11、台湾2004/12)
・共同執筆論文 (Tang & Lamarre) 執筆中 "The linguistic encoding
of motion events in the Guanzhong dialect (Shaanxi, China)
--- with a reference to Standard Mandarin ---"
主な活動
・COE主催国際セミナー「アジアから見る空間移動表現のタイポロジー:タイ、台湾、陜西」(2004/12/18駒場)
・若手研究者招聘:中国社会科学院(院)、唐正大(2週間)(2004/12)
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談話能力の発達研究
大堀壽夫
南部美砂子(PD)
プロジェクトの目的
本プロジェクトでは,談話能力の発達的変化の特徴を明らかにするため,特に視覚刺激の言語化に焦点を当て,物語産出と認知発達・認知特性の関係を厳密に
検討する実験心理学アプローチを試みる.予備的な検討として,成人(大学生)を対象とした集団実験を行い,二重課題法によって認知的負荷を与えた際の記
述データを収集,分析する.
2003-4年度の成果
二重課題による認知的負荷が物語産出に及ぼす影響を明らかにするため,映像刺激の描写をメイン課題とする集団実験を行い,視聴後にそのまま内容の記述
を行う統制条件と,記述と同時に二重(サブ)課題を与える3つの条件の比較を行った.
図形書写条件:記述開始後60秒ごとに,ポンという音とともに○△□のいずれかの図形がスクリーン上に呈示され,別紙にそれを書き写す.
文字判断条件:同様に,ひらがな1文字が呈示され,1つ前のひらがなと同じなら○,違う場合は×を記入する.
空間判断条件:同様に,3×3の9つのマスのうち1つが黒く塗りつぶされたものが呈示され,1つ前のマスの位置と同じなら○,違う場合は×を記入する.
実験により,統制条件16名,図形書写条件18名,文字判断条件14名,空間判断条件17名の記述データを得た.文を単位とする産出量については,条
件間の差異が示されなかった.さらに現在,各シーンへの言及の有無や移動・空間表現の特性など,質的側面の分析を進めており,認知的負荷の有無および性
質の違いに応じた物語産出の特性について検討する.本研究は,日本認知科学会第22回大会において発表予定である(発表タイトル「ながら状況における認
知的負荷と言語表現:ビデオ刺激の記述データの分析」).
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Wh-expressions, Plurality and
Quantification in Japanese
Christopher Tancredi (タンクレディ・クリストファー)
Objectives
To determine the semantics of wh-expressions, definite and indefinite
descriptions, and mo in Japanese.
Results
This project focused on the wh-mo construction in Japanese,
as illustrated in the following example. (i) 誰が書いた論文も面白かった。Together
with Miyuki Yamashina, I developed a uniform semantics for
wh-expressions, mo, noun phrases and concessive clauses that
can account for the following properties of this construction:
(a) Example (i) is generally given a universally quantified
interpretation, entailing that for every person who wrote
a paper the paper was interesting; (b) If an adverb like
taitei is added to (i), then the sentence becomes ambiguous
between: for every person who wrote papers, most of their
papers are interesting; and for most people who wrote a paper
the paper was interesting; (c) Whmo NPs can co-occur with
some predicates that typically require a plural subject,
such as atsumaru or issho-ni V. However, they do not combine
with other such predicates, like wa-ni naru. (ii) 誰が投げた石も一緒になった。(iii)
#誰が投げた石も輪になった。The analysis we developed can be summarized
as follows: I: Wh-expressions introduce alternatives; II:
Semantic composition applies to all alternatives until a
wh-sensitive operator is met; III: Mo is a wh-sensitive operator
which sums the alternative denotations of its sister into
an i-sum; IV: Quantificational force for the mo-phrase comes
either from a covert distributive operator that operates
over i-sums to give a universally quantified interpretation,
or from an overt adverb of quantification. I presented the
basics of this analysis in invited talks at Princeton University
and the University of Maryland. Then in the paper presented
at the Strategies of Quantification conference in York, England
and currently under review, I combined the analysis with
a choice function analysis of indefinites by intensionalizing
the latter. In a paper I presented at the 9th annual Sinn
und Bedeutung conference, held in Nijmegen, Holland, we further
combined the analysis with an analysis of plurality, arguing
that the latter must acknowledge two distinct types of plural
entities, groups and i-sums, as first proposed in Landman
(1989).
References
Landman, Fred, 1989, Groups I, Linguistics and Philosophy 12, 559-605.
Schwarzschild, Roger, 1996, Pluralities, Kluwer Academic Publishers.
Published papers resulting
from this project:
Yamashina, Miyuki and Christopher Tancredi (2005) "Degenerate Plurals"
Proceedings of Sinn und Bedeutung 9, edited by Emar Maier, Corien Bary
& Janneke Huitink. (To appear April 2005 at www.ru.nl/ncs/sub9)
Conference talks resulting
from this project:
Yamashina, Miyuki and Christopher Tancredi, "Degenerate Plurals" Sinn
und Bedeutung 9, Nijmegen
University, Nijmegen, Holland, November 2, 2004.
Tancredi, Christopher and Miyuki Yamashina, "The interpretation
of Indefinites in the Japanese wh-mo
Construction," Strategies of Quantification, University of
York, July 17 2004.
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受動構文の普遍相と個別相:"passive
prototype"と日本語受動構文
坪井栄治郎
プロジェクトの目的
Shibatani (1985)以来、受動構文の類型論的研究にお いてはいわゆる"passive
prototype"の存在が想定されていることが一般的と 思われるが、この想定の妥当性には、様々な面で検討されるべき点がある。本
プロジェクトでは、これまで行ってきた日本語受動構文の分析をそのような観 点からさらに進めることを第1の目的とし、それによって通言語的・普遍的な
妥当性を持つものとして想定される各種の文法範疇や構文概念の妥当性を問い 直すことを第2の目的とした。
○2003-4年度の成果:第1の目的に関しては、非情物主語のニ受身が一般的に許容
されないことをある種の有生性階層に基づく制約の結果とするような考え方の
批判的検討を行った。そうした有生性階層は、様々な現象の記述において頻繁 に言及されるものだが、そうした制約はあくまで観察される言語事実の一種の
要約でしかなく、元々それ自体が説明されるべきものであること、さらに、そ うした制約の結果として記述できる現象と本質的に同じと思われる現象が他に
もあること、などを考え合わせて、そうした制約の背後にある日本語の他動的 事象の構成原理自体についての考察を行い、通言語的な一般化の形で捉えられ
る部分も多いものの、それからは漏れてしまう個別言語固有の部分もあり、さ らには表れとしては同じ形を取っても、そのメカニズムは必ずしも同じではな
いこと、などを明らかにした。第2の目的については、主にsemantic mapアプ ローチを対象として理論的な考察を行った。semantic
mapアプローチにおいて は、文法概念が一定の形で配列された意味空間が意味の普遍的な側面を、その
意味空間をどのように文法形式で切り分けるかが個別言語固有の意味の側面 を、それぞれ捉えるものとして想定されるのが一般的だが、後者を尊重すれば
意味空間の普遍性が維持しがたくなることや、意味空間内の文法範疇の配列を すべての言語に対して矛盾なく行うことは無理であること、semantic
mapアプ ローチの有効性は、それが主として表現機能に関わるものであることによるも
のであり、個別言語の分析においては個々の形式がそのような表現機能を果た すようになる理由を求める必要があり、それには事象構成の基盤にある認知モ
デルについての考察などが不可欠であることなどについて考察を行った。この 成果は2005年5月にフランス・ボルドーで行われるFrom
Grammar to Mind Conferenceにおいて" Semantic Maps and Grammatical Imagery:
Universal and Language-specific Aspects of Grammatical
Meanings"というタイトルで 発表する予定である。
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矢田部修一
戸次大介,早川聖司
プロジェクトの目的
当プロジェクトは、自然言語における意味計算のあり方を明らかにすることを最終目標とするもので、特に、コンパクション駆動意味合成理論という、統語構造
ではなく韻律構造に基づいて意味合成を行う理論の妥当性を検証することを中心的な目的とするものであるが、今年度は、以下の3点を重点的な目標とした。ま
ず、第一に、コンパクション駆動意味合成理論を検証する際の重要な検討領域となる、等位接続構造に関して、主辞駆動句構造文法(HPSG)の枠組みに基づ
く包括的な理論を構築すること。等位接続構造の中で、coordination of
unlikesと呼ばれるタイプのものはHPSGにおいては取り扱うことが困難であるという予測が広く受け入れられているが、その予測は間違いであること
を示す。
第二に、やはりHPSGの枠組みの中で、MRSの手法を用いて、焦点化に関する理論を構築すること。焦点化の問題領域は、量化の問題領域と並んで、コンパ
クション駆動意味合成理論の妥当性を示す証拠を提供してくれることを期待できる領域である。第三に、量化子の累積読み(cumulative
reading)に関する理論を精緻化・検証すること。累積読みの問題は、量化の問題領域において何事かを厳密に論証しようとする際には避けて通ることの
できないものである。
2003-4年度の成果
矢田部は、The 11th International Conference on HPSGの会議録に出版した論文で、coordination
of unlikesに関する、HPSGの枠組みを用いた理論を提示し、その理論においては、each-conjunct
agreementとでも呼ぶべき、単純な現象でありながらこれまでいかなる理論においても妥当な記述が行なわれてこなかった現象にも正しい記述が与えら
れること等を示した。また、議論の過程の中で、each-conjunct
agreementという現象の存在は、agreement一般に関する「標準的な」理論に対するB.
Ingriaの批判が正しいことの証明となっていることを指摘した。戸次は、累積読みなどに関する理論の基盤となるTyped Dynamic
Logicに圏論による意味論を与えることを試みており、現在、いくつかの基礎定理の証明まで
終えている段階である。そして、早川は、矢田部とともに、統語的構成素を成さない単語列が焦点として解釈される現象に関して論文を執筆中で、その論文を
2006年8月にエディンバラで開催されるESSLLI 2005で発表すべく準備を進めている。
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日本語と朝鮮語の対照研究
生越 直樹
尹盛熙(RA)・円山拓子・金智賢・韓キョンア(大学院生)
プロジェクトの目的
類似点が多いとされる日本語と朝鮮語を対照し,両言語の異同を明らかにすることにより,言語の普遍性と個別性について考えてみたい。
両言語の対照研究は少なく,今後その研究の進展が期待されている分野だと考える。言語情報科学専攻には韓国人留学生も多く,日朝対照研究をテーマとして
いる学生も多い。扱うテーマは限定していないが,特にモダリティに関してはまだ研究が少ないので,特に力を入れて取り組む予定である。
2003-4年度の成果
日本語と朝鮮語の対照研究の研究最前線の状況把握と若手研究者の育成を兼ねて「日韓対照研究会」を発足させ,今年度は3回研究会を開催した。各研究会では
対照研究あるいは朝鮮語研究で活躍されている方に講演をお願いした。第1回(12月)は鷲尾龍一氏(筑波大学)に「」,第2回(2月)は金倉燮氏(東京大
学/ソウル大学)に「」,第3回(3月)は塚本秀樹氏(愛媛大学)に「」というテーマでお話しいただいた。また研究会では,同時に大学院生の研究発表を行
い,今年度は4名(尹盛熙,円山拓子,金智賢,韓キョンア)が各自研究しているテーマについて発表した。「日韓対照研究会」は今後も年2〜3回のペースで
開催する予定である。
研究会とは別に,大学院の授業を利用しながら,日本語と朝鮮語のモダリティについての対照研究も進めており,すでにレポートの形でいくつかの成果が出て
きている。来年度は,これまでの研究会の成果とモダリティ研究の成果を報告書としてまとめる予定である。
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田中伸一, 西村康平,高野京子,邊京姫(以上,博士課程学生),
呉偉原,明石香保里(以上,修士課程学生),孫範基(以上,研究生)
プロジェクトの目的
本研究では,海外における音韻理論に関する最先端の研究情報収集を行いつつ,日本における音韻理論の発展と発信のための一大拠点を,わが東京大学総合文化
研究科の言語情報科学専攻に形成することを最大の目的とするものであった。すなわち,音韻理論研究のための継続的な人的ネットワークの拠点を目指し,それ
により世界に発信できる独創的な音韻理論研究を行うための基盤づくりを行った。プロジェクト名は「音韻理論」を研究対象のテーマとしているが,その発展の
早さとポテンシャルを考えて狭い領域に留まることはせず,周辺分野とのインターフェイスを含む理論・実験双方からのアプローチを含むものとした。従って,
音韻論・音韻史・最適性理論・認知音韻論・実験音韻論・調音音声学・音響音声学・聴覚音声学・認知科学など,広く「音」に関わる領域を巻き込んで,音声科
学一般の理論的基盤になり得るような音韻理論の拠点形成を目指した。現状では,音韻理論に関する広い人的ネットワーク機能を備えた研究・教育拠点というも
のは,日本に存在しなかった。しかし,このプロジェクトの遂行により,「東京音韻論研究会」という形で,1年をかけてその基礎づくりを終え,上記の目標を
達成することができた。
2003-4年度の成果
2004年度は,東大を拠点として「東京音韻論研究会」を月1回の頻度で開催し,日本人研究者や海外の研究者を招聘したり,あちらに派遣することを通じ
て,各地域の研究者を繋げてネットワークを作ることを遂行した。参加者には東京大学を始め,筑波大学,千葉大学,茨城大学,東京都立大学(首都大学東
京),早稲田大学,上智大学,獨協大学,明海大学,青山学院大学,松蔭女子大学,東京家政大学,北海道医療大学,山口大学,オハイオ州立大学,インディア
ナ大学,ブリティッシュコロンビア大学,マサチューセッツ大学などの関係者が含まれ,常時20名以上のメンバーが揃った。また,私や大学院生などの学内関
係者も積極的に研究発表を行い,情報発信を行った。また,「東京音韻論研究会」の開催のほかに,海外を中心とする音韻理論に関する勉強会(輪読会)を,学
外を含めた若い研究者用に週1回開催し,学内の大学院生用に教育的配慮に満ちたオリジナル研究発表会も,週1回開催した。それにより,言語情報科学専攻を
拠点として,広く関東を中心に音韻理論教育の機会を与え,この分野の底辺の拡大と底上げを行った。このような月1回の「東京音韻論研究会」開催,週1回の
勉強会(輪読会),週1回の学内研究発表会の開催を,継続的な研究・教育拠点の大きな柱としたほか,「東京音韻論研究会」のホームページ(http:
//gamp.c.u-tokyo.ac.jp/~tanaka/TCP%20HP/INDEX.htm)を日英語版で作成し,その目標・沿革・過去の例
会・今月の例会・会場のアクセスなどを記し,広報に努めた。
以上を含め,その他今年度行った事業を整理すると,次のようになる。
・情報発信
1) 月1回の「東京音韻論研究会」開催
2) 日本の他の研究会への派遣
3) ホームページ作成・管理(http://gamp.c.u-tokyo.ac.jp/~tanaka/TCP%20HP/INDEX.htm)
・情報収集
1) 週1回の勉強会(輪読会)・学内研究発表会の開催
2) 海外における最先端研究の調査としての海外研修
3) 日本および海外の研究者の招聘
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話しことば談話の分析:心的態度表意とその文法
藤井聖子(プロジェクト担当者、言語情報科学 助教授)
ラマール・クリスティン(統合言語科学部門リーダー、言語情報科学 教授)
作田千絵(修士課程2年 技術補佐員)、 青木玲子(修士課程2年)
幸松英恵(博士課程1年 RA)、車田千種(修士課程 技術補佐員)
石田邦子(修士課程)、パルティナ・エレナ(博士課程)
植田榮子・加藤陽子(博士論文執筆中)
プロジェクトの目的
1)日本語と英語の話しことばにおける心的態度表意メカニズムを、実際の話しことば談話(会話、対談、独話)の分析を通して明らかにし、その機能と表意手
段の文法を、「語用標識化」の観点から動的に探究する。
2)この目的を踏まえた話しことばの分析のために、a) 話しことば分析における諸理論の吟味を行い、b)
話しことば談話データ(会話、対談、独話)を収集し、c)
言語分析用資料を構築し(収録視聴覚メディアの電子ファイル化・精密な転記作成・転記ファイル化)、d)
基礎的要素に関する分析(Intonation Unitsと統語構造との関連、Intonation
Unitsの機能構造、選好的項構造、指示表現、談話標識、それらの日英語対照、等)を、「談話と文法」の観点から行う。
2003-4年度の成果
話しことば分析に関する諸理論を踏まえ、話しことば資料構築の方法論を確立し 構築作業を進めることを活動の中心とし、以下のような成果をあげた:
1) 話しことば分析における諸理論(発話単位 Intonation Units,
転記法理論、発話の統語的ラベリング・機能的ラベリング、他)の概観・吟味; 2)「語り」及び「自然会話」の統一的収集方法の確立; 3)
話しことばのデータ処理に使用するパソコン環境・ソフト・機器等の調査・整備; 4) 本研究で用いる転記法の確立;
5)「語り」データの収録と転記(日本語母語話者、英語母語話者、日本語非母語話者); 6) 「自然会話」データの収録と転記(日本語母語話者)。
本プロジェクトには言語情報科学の大学院生が参加し、共同研究体勢の中で研究教育を進めてきた。本研究で構築した話しことば資料を用いた共同研究の一貫と
して、日本語と英語におけるイントネーション単位と統語構造との関連の分析(作田・藤井)、日本語の語りにおける指示表現・選好的項構造の分析(青木・藤
井)の第1段階を完了した。(これらの共同研究の成果は、言語情報科学平成16年度修士論文で報告された:Intonation Units in
Japanese and English、Chie
Sakuta.「日本語の語りにおける指示表現」青木玲子.)来年度以降データを増加してこれらの分析を継続し、英語との対照も精密化する計画。同時に、
話しことばにおける機能語(接続形態素、補文標識、他)の発話末用法・終助詞化の研究を進めてきている。特に、理由・条件・譲歩を表わす接続形態素の発話
末用法(藤井・幸松)や、引用を表わす補文標識の発話末用法(藤井・加藤)を分析した。研究成果の一部は昨年7月の国際構文理論学会(於マルセイユ)にお
いて発表し、2005年度の国際認知言語学会など国内外の学会で発表する予定である。
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方言文字の表記から見た方言の広域共通語化--表記の変異と変
遷
吉川雅之
プロジェクトの目的・2003-4年度の成果
本研究は19世紀を考察対象時期として、有力な地点方言が広域共通語へと成長する過程を、文字表記面から考察する基礎的研究である。この成長の過程は、中
国語圏に起こった言語の近代化(国語の成立など)と時期を同じくしたと考えられる。広域共通語へと成長するさいに確立される書記言語としての機能(および
その機能が育まれるか否か)は、その方言の使用社会を1つの共同体としてまとめる上で重要なものであり、方言語彙を表記する特有な方言文字の使用が広域共
通語化に与えた役割を検証する。
今年度は、欧米人が中国語の有力な方言(広東語や上海語、客家語)について著した辞書や教材、聖書や教義書の文字使用を中心にデータ収集を行ってきた。
方言文字が歴史的に(a)どの種の資料において多用される傾向にあるか、(b)既存の文字体系とどのような関係の下に併用・混用されたか、についても配慮
しつつ分析を行った結果、広東語については次の知見が得られた。「彼らの著述に見られる特徴の一つに、漢字表記の困難な音節(擬声語・重ね型形容詞を含
む)を排除せず、言語音として出現するの全ての音節を網羅した音韻体系を提示した点が挙げられる。音韻体系の構成要素として承認されたこれらの形態素・音
節の文字表記としては、(1)漢字表記を用いない、(2)漢字表記を与える、という処理が行われたが、時期が下るにつれ(1)から(2)への移行が見られ
る。そして漢字表記を与える場合、(3)新しい字形を創る、(4)既存の字形をそのまま借用する、のいずれかが採用された。だが、ことなる著述間に共通す
る字形が固定される(字形の標準化が進行する)までには一定の期間を要したようである。」
2005年3月にはスイス・バーゼル教会図書館で19世紀に著された客家語文献についての文献調査を行った。今後は調査で得られたデータの分析を速やか
に行い、文字表記、特に各方言の性格を特徴付ける形態素・音節の表記方法を中心に考察を進め、その方言・資料間での変異、そして通時的な変遷と字形の標準化について学術会議での口頭発表や学術誌での論文発表を行う予定である。
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